ふりかえり / Looking back and forth
28年前にグループ展をしたその同じ会場で、これまでの代表的作品40点あまりを、時系列に並べた個展。その間、変えたもの、変えなかったもの、変えたかったもの、変えられなかったもの、変わったもの、変わらないものを、同じ場所から今一度ふりかえり、明日を見つめる機会になった。
33の音をかく
三十三間堂はなぜ、33なのだろう。この謎に迫るべく京都に滞在、室町蛸薬師の京都芸術センターを拠点に33日間、毎日ひと筋ずつ東西南北に範囲をひろげて歩いて周回してみた。 これまで手をつかって文字をかくことで、言葉に向きあい、言葉を反芻するように表現してきたが、今回は足をつかって歩くなかで聴こえた音を日々、33の円でかきとめる。意味をもとめずただ受けとめる。自分は土地への先入観が少なく、その場その時の動きはわりに素朴に反映された。 そのひとつひとつは断片的で、こぼれ落ちてしまいそうな些細なものにすぎない。言葉になる手前の、作為のない雑音の集積に耳をすましてその響きに身をゆだねる。33日間でおよそ352キロ歩いたが、33の答えは持ち越した。
Cosmic Ego / 自我からの解放をめざして
長野県北部で二拠点生活を始め、自然に近い環境ですごした6年間の終わりに取り組んだ Cosmic Egoシリーズ。かいてある言葉はego一つだが、無数回くりかえしかいている。惑星のように大きいエゴからゴミみたいに小さいエゴ、独占するエゴ、追従するエゴ、飛び降りるエゴ、ニヤリと笑うエゴ・・叩いても逃げても際限なく湧き上がるegoたち。
Drawing & Painting
Between You and Me
羅針盤 / Compass
生まれ育ち拠点としてきた東京を離れ、縁もゆかりもない長野県北部に月の半分ほど一人 滞在しはじめたころ、 長野の土をまぜこんで東/西、南/北を Non Dual Letter でかいたもの。省察に先立って、旅人が夜空を見上げて北を知る星のように、GPSがきかないところを歩くための羅針盤をつくり、部屋の片隅においていた。四方位が中心から広がり出ている構図。中心には小さな穴がある。観る人の心がそこを通って表と裏、こちらとあちらの行き来ができるようになっている。
Non-Dual Letter
Dual Letterを介して外の世界を自分の内に取り込もうとしてきたが、この時期、視点が内面へとシフトし始める。そして2007年ごろから取り組んだNon Dual Letter では、図と地それぞれに言葉を対置して、実際そこには書かれていない三つ目の言葉をあぶり出そうと試みる。裏と表の間の境界上にあって、どちらでもなくどちらでもある領域をnon dualと表現している。
まるいこだま / Kodama
今、この瞬間も地球は時速1,700kmもの超高速で自転しながら、時速10万kmで太陽の周りを移動していて、体の中では数千万個の細胞が死んでは再生しているらしい。ひとつ間違えば明日は来ないこの世界の日常とは、非日常の連続だ。3.11の震災をきっかけに”ありがとう”の言葉について考えたが、日本人は、「ありがとう=在り難う=”在る”ってのはかなり難しいことなんです」と言って謝意を伝える。これは海外のthank you やmerci、謝謝とは少し違ったニュアンスで、祈りであり真理の言葉なのではないかと思い至り、”ありがとう”を両面文字でエコーのようにかいたもの。
Hohuri
人と人の間をつなぐ言葉をかたちにしたシリーズ ”祝(ほふり)”。贈る心をのせる依り代として、あるいは自身の護符として、両面文字で書きあげています。自利利他の実践としても。
月のうさぎ / Moon Rabbit
両面文字でかいた「月のうさぎ」シリーズ。自分を食べてくださいと、火の中に飛び込んだうさぎはお釈迦様の前世の姿。うさぎの棲む月は、太陽と違って自ら輝かない。日をうけて輝く月の光と影、そのどちらも月の一部なのだった。
Heart Sutra
9.11への鎮魂の意をこめてDual Letterでかいた般若心経Heart Sutra。
Dual Letter / 両面文字
両面文字 Dual Letter とは、日本語と英語表記を分解し、同義のアルファベットで再構築した、いわば日本語と英語どちらでも読める文字である。西洋のカリグラフィを学んだが、日本の和歌や古典をアルファベットで表記すると印象が変わる。元のリズムや響きを損なわずに書くことは可能だろうかと考え始め、東洋の書を学ぶなかで、二つの言語の間に両面文字Dual Letterがうまれた。枕草子、般若心経、そのほかさまざまな書物を両面文字に翻字して作品化している。
Bones